だが、太刀を手に取ることさえできなかった。 膝が震え、喉が狭まり、呼吸ひとつ満足にできないのだ。 反撃どころか立ち上がることさえできなかった。 これでは、討ってくれと言わんばかりだ。 薬を飲み過ぎたか、と臍を噛む。 にもかかわらず、国親は襲ってこなかった。 思ったよりも深手を与えたのか。 ―― いや、そうではない。 国親は笑っていた。 まるで目的を達成したかのように。 あわてて姫を置いた崖下の窪みに目をやった。 矛を持ったもう一人の郎党が、そこへ向かっていた。 瞬時に頭から血の気が引いた。 手遅れと悟った。【生髮維他命】維他命補充品真的有助改善脫髮嗎?...
Lire la suite黒駒に鞍や鐙を付け、真っ赤な三懸で飾り立ててやる。 ほかの馬の尾には縄を結んだ松明を括りつけた。 兼親の大太刀と自分の太刀を左腰に下げた。 重いうえに邪魔になるが、やむおえないだろう。 本来、弓や大太刀は使う直前まで自分の従者に持たせておくべきものだ。 隆家様のもとに姫を無事送り届けることが出来れば、その身分に戻れるだろう。 だが、友を見殺しにした男にその資格はない――わかってはいても未練を捨てきれず、その姿を想像してしまう自分がいた。 小さく頭を振った。 今、考えなければならないのは姫のことだ。...
Lire la suite姫を残していった場所に戻るまでにどれだけの時を要しただろう。 そこに、姫の姿はなかった。 扇が落ちていた。 血の気が引いた。 生きた心地がしなかった。 *――忘れているのですか? なんと残酷な言葉だ。 忘れることなどできようか。 確かに頑固で、ひねくれた悪童だった。 幾度、悪さをしたかもさだかではない。 折檻されても許しを請うこともない、涙も流さない、かわいげのない悪童だった。 だが――このときばかりは感情を押さえ切れなかった。 声を上げ、探し回った。 大人に頭を下げた。 山菜を採りに来ていたおばばの、近くを山犬がうろついているのを見た、という言葉に胸が張り裂けそうになった。...
Lire la suite地響きが櫓を揺らし、三郎を揺らす。 いや、揺れているのは櫓だけではない。 自分の足が震え、体を揺らしているのだ。振り返り、下を見ると仲間たちの情けない顔が並んでいる。 恐怖は伝染するという。 だが、三郎は怯えているのが自分一人ではないことに、むしろほっとした。 「三郎、われらの大将はおまえじゃ。早う指示を出せ」 声を上ずらせた喜八郎が、笑おうと試みていた。https://www.liveinternet.ru/users/freelance12/blog#post508342148 https://plaza.rakuten.co.jp/aisha1579/diary/202411160009/...
Lire la suite頼もしい味方を得た。 イダテンは必ず帰ってくる。 それまでは自分が仕切るのだ。 ――と、三の郭から侍所の信綱様の声が鳴り響いた。 馬に乗れるものはわしに続け。向かうは薬王寺じゃ、と。弓を手にした三郎が、櫓の上に立って何やら指図を出している。 「三郎、何をしているのです」 ヨシが近づいて声をかけると、すぐに返事が返ってきた。 「赤目が攻めてくる」 何のことかと理解できない様子のヨシに畳み掛けるようにつけ加えた。 「赤目の国親じゃ。イダテンも、攻めて来ると申しておった。おかあ――母者は、皆に声をかけ、逃げる支度をしてくれ」https://plaza.rakuten.co.jp/aisha1579/diary/202411160007/...
Lire la suite落ちていく陽を背負い、行者山に向かってイダテンは走った。 真紅の髪をなびかせ、 獣のような腕を振り、 黄金色に輝く稲穂の間を、 紅も鮮やかな紅葉の下を、 白く輝く川面に点在する岩の上を、 飛ぶように走った。 天神川の船着き場では、船頭や荷を運ぶ男たちが兵たちに囲まれていた。 国親らが、情報を遮断するために動き始めたようだ。 夜討ちと確信した。 予想した通り、行者山を背にした薬王寺の石段手前には多くの兵の姿があった。 大きく迂回し、頭上を杉に、足元をシダと灌木に覆われた斜面を駆け上がった。 中ほどで木に登り、枝から枝へと飛び移って寺の東側に回る。...
Lire la suite煙は、薬王寺の左右からも上がり始めた。 国親のことだ。この邸を襲う理由も用意しているだろう。 「いや、戦支度は侍どもにまかせ、姫を連れて逃げろ …… もたもたしておると邸におるものは皆殺しにされるぞ」 三郎が声を張り上げる。 「馬鹿を言うな。われら武士は戦に加わらぬものを巻き添えにしたりはせぬ。戦とは …… 」 「邪魔者は、皆殺しにして口を封じるが一番早い」 「違う!」 三郎は血相を変えて詰め寄った。 「違うぞイダテン! 赤目が、宗我部国親が、いくら卑怯なやつでもおなごや童には手をださぬ …… 普段はともかく、戦場では正々堂々名乗りを上げ、兵としての誇りをかけて戦うのが武士というものじゃ」https://plaza.rakuten.co.jp/aisha1579/diary/202411160002/...
Lire la suite「わしも得心がいかぬ …… が、おまえのことじゃ、気は変わらぬであろう。ならばせめて忠信様とこれから先のことを話すべきであろう。何かしら道があるはずじゃ」 三郎が、門を何度も振り返る。 イダテンの性分から、いつまでも待ちはせぬと思っているのだろう。 確かにその通りだ。 だが、老臣には伝えておかねばならぬことがある。 姫の顔色が悪いことに気がついた。 もともと体が丈夫ではないと聞いている。 具合が悪いのかと聞くと、 「 …… もう、大丈夫です」 と、言葉を濁した。https://share.evernote.com/note/db5e7b03-b4b5-e100-ddc9-12a3849cf72b...
Lire la suiteの疑いをかけられぬとも限らぬ。 わたしが誤った動きをすれば、我が子・三法師にもが及ぶやも知れぬ。…わたしのせいで、織田一族の平穏を乱すような真似はしたくないのだ」 「…兄上様」 「このまま、慈徳院がわたしのとして建立してくれたこの大雲院で、ひっそりと暮らし続ける方が良いのじゃ」 のように澄んだ面持ちで、心中を語る信忠に 「そうやも知れませんね。…確かに私も、兄上様が名乗りを上げてご苦労なされるよりも、ここで僧侶として仕え、 平穏にお暮らし下さる方が心丈夫にございますもの。きっと様や慈徳院殿、そして松姫様も、それを望んでおられましょう」...
Lire la suite報春院に促され、濃姫は静かな面持ちになると、改めて胡蝶を見据えた。 『私がそなたを産んだ時、そなたを我が手元で育てるかか、様々な葛藤があったことは、無論 存じておるな?』 胡蝶は黙って頷く。 『周りの反対を押し切り、そなたを手元で育てると決めたのは、ひとえに私の我がからであった。 一度は尼寺に預けることも考えたが、やはり無理であった。母として、そなたの成長を誰よりも近くで見届けたかったのです』 『母上様 … 』 『その後も色々と思い悩むことはあったが、そなたを私の手元で育てることが出来て、心から良かったと思うておりまする。...
Lire la suite