地響きが櫓を揺らし、三郎を揺らす。
いや、揺れているのは櫓だけではない。
自分の足が震え、体を揺らしているのだ。振り返り、下を見ると仲間たちの情けない顔が並んでいる。
恐怖は伝染するという。
だが、三郎は怯えているのが自分一人ではないことに、むしろほっとした。
「三郎、われらの大将はおまえじゃ。早う指示を出せ」
声を上ずらせた喜八郎が、笑おうと試みていた。https://www.liveinternet.ru/users/freelance12/blog#post508342148 https://plaza.rakuten.co.jp/aisha1579/diary/202411160009/ https://blog.goo.ne.jp/debsy/e/7da821d29d3dc63d5682de5977e1a61d
九郎も、強張った顔でうなずいている。
仲間とまた、力を合わせることができる。
三郎は力強くうなずいて声を張り上げた。
「九郎、西一の門が閉まっているか見てきてくれ。南二の門もだ!」
「……おおっ、まかせろ。小次郎、おまえは南門へ走れ。おなごや童が逃げ込めるよう、侍どもの行動に目を光らせておけ」
「喜八郎、弓と矢をくれ」
喜八郎が、指示に従って弓と箙を差し出した。
だが、血の気の引いた仲間たちは無言のままだ。
「九郎、皆に矛を!」
こんなときこそ、へそに力を入れ、大声をあげて味方を鼓舞しろと、教えてくれたのはおじじだったか。
「どうした! われらは武門に生まれ、主人のために死んで行く武士の血筋! 先祖の名を穢すでないぞ。わが名を後世に残す好機ぞ! われらが初陣ぞ!」
やけくそ気味ではあったが、声は十分に出た。
力強いとはいえないが、仲間たちの、
「おおっ!」
と、いう声も返ってきた。 振り返ると、弓を手にした男に、
「こわっぱ、どけ!」
と、言う声とともに櫓の柵に押し付けられた。
「邪魔じゃ! 命が惜しくば二の郭に逃げ込め。この郭は放棄するぞ」
日頃から弓の腕を自慢している侍所の景時だ。
敵に気をとられているうちに櫓に上がってきたのだろう。
三郎は引かなかった。
景時をにらみつけた。
「わしが先にこの場所をとったのじゃ」
「そうじゃ、三郎が先じゃ」
「横取りは許さぬぞ」
「お前には矜持と言うものがないのか」
と、喜八郎たちが後押しする。
童たちに責め立てられた影時は形相を変え、
「尻の青いこわっぱの出る幕ではないわ! さっさと降りぬと突き落とすぞ」
と、加減なしに胸を突いてきた。
尻から倒れ、櫓の端に転がった。
横木に手を伸ばさねば下に落ちていただろう。
なおも踏みつけようとする景時だったが、再び聞こえてきた法螺貝の音に、真の敵が誰だったかを思い出したとみえ、あわてて弓を構えた。
一番手柄をものにしようと、白絲威の鎧に身を包んだ騎馬武者が門をめがけ、正面から一直線に駆け上がってくる。
反撃する力など無いと思っているのだ――ならば一泡吹かせてくれる。
手のひらを衣で拭って立ち上がった。じきに弓場で稽古している距離になる。
と、三郎の右手前に立った景時が矢を放った。
腕自慢の景時であったが矢は遥か手前に落ちた。
そもそも矢の届く距離ではない。
だが、これが実戦というものなのだろう。
雑念を払おうと、弦を引き絞ることに集中する。
人の目を盗んで幾度も大人用を使ったことがある。
大丈夫だ。落ち着け、と自分にいい聞かせる。
――が、腕が震え、狙いを定めるどころではない。
先頭を駆ける大鎧姿の騎馬武者が笑ったように見えた。
一番手柄は自分のものだと確信したのか。童を押し出してきた邸の守りにあきれたのか。
武者は背の箙から矢を引き抜くと、さほど狙った風もなく、馬上から弓を引く。