「はい、信忠様。 ──ちょうど今、姫様がお召しになっておられるも、姫様が自ら仕立てられた物にございます」
お菜津はそう言って、胡蝶がっている衣を手で指し示した。
鮮やかな薄紅色の地に、可愛らしい白や桃色のの花が細かく刺繍されている。
「これは驚いた──お針子が仕立てた物じゃとばかり思うておった」
信忠は思わず目をぱちくりさせた。
「そんな、これこそ大した物ではございませぬ。帷子は裏地がありませぬ故、
比較的 縫うのが楽なのです。後は、刺繍を黙々と致せば良いだけなので」
胡蝶はどこまでもするが
「そうか…、何をするにもを強いられていたそなたが、左様なことまで出来るようになったのか」
信忠は、万感胸にる思いで呟いた。https://www.myvipon.com/post/1093652/show-amazon-coupons https://wakelet.com/wake/SrSw5iSi3uZ-pL_knP20i https://www.merchantcircle.com/business-action/p/dashboard/blog/all
妹の成長が素直に嬉しいのだ。
将来的には、それこそ自分が手足となって、胡蝶を支えていかなければと思っていただけに、
身体の不自由など何のそので、少しずつ出来ることを増やしていく妹の姿が、信忠にはとても逞しく見えた。
これも蘭丸効果だろうか?
と何気なく思いつつ、信忠は室内を見渡した。
「──蘭丸は、来ておらぬのじゃのう?」
「蘭丸様は東の広間へ参られました。今宵のおのお仕度の為に」
「そうであったか」
「蘭丸様に何か?」
「いいや、何でもないのだ。……それよりも、胡蝶」
「何でございましょう?」
「今、幸せか?」
「勿論にございます」
胡蝶はを入れずに答えた。
「父上様、母上様。祖母上様に、お菜津や齋殿、古沍殿もおり、実に満ち足りた日々を過ごしておりまする」
「自由がないのに、満ち足りておるのか?」
「はい。だって私は、自由が何なのかも知らないのですもの。知らなければ、求める必要も、ましがる必要もないでしょう?」
「…確かに。言われてみれば、そうじゃな」
「それに今の私には、蘭丸様というお味方がおります故、心強うございます」
「蘭丸をいておるのか?」
その単刀直入な問いに、胡蝶の動きが一瞬 止まった。
しい面差しが熟れたのように赤く染まり、
胡蝶はもじもじと、恥じ入ったような態度を取り始める。
だが、それもほんの束の間。
最終的に胡蝶が見せたのは、まるでを思わせるような、
清らかで優しい、愛情に満ちたであった。
「はい──そうなのだと思いまする」
胡蝶は頷いて、自分の胸の上に軽く手を当てた。
「蘭丸様といると、胸の奥の方に、小さな火が灯るのです。あのお方のさる一つ一つの行動によって、
火が大きゅうなったり小そうなったり…。それでも、決して消えることなく、ずっとり続けているのです」
「胡蝶」
「もしもこの感情が、恋や愛というものであるのならば───はい。私はあのお方を、好いているのだと思いまする」
幸せそうに微笑む妹を見て、信忠は実に満足気な顔をして頷いた。
「それを聞いて、大いに致した。例え人が、何らかの思惑があって取り結んだ縁であったとしても、
お互いがうていれば、きっと良いになれると…儂はそう信じておる故」
「兄上様」
「そなたと蘭丸がましい」
優しさを帯びた瞳を向けながら、信忠は静かに言った。
胡蝶はあえて何も言わなかったが、きっと今の信忠の言葉は、
彼が常々気にかけていた松姫とのことを言っているのだろうと思った。
信忠が胡蝶に近況を知らせる文には、決まって松姫様を案じる言葉がられていたからだ。
『 私と違い、兄上様は愛しいお方と引き離されて……何と哀れな… 』
胡蝶は、自分の幸せが申し訳なく感じる程に、複雑な信忠の心情をっていた。