桜花のそんな心境を知ってか知らずか。 「晋作は君と旅が出来て意外と楽しかったと言っていた」 吉田はそう言った。高杉らしい、素直でない物言いに桜花は笑みを漏らす。 「晋作を生かすか殺すかは天次第だよ。まあ、でも殺しても死なないような男だからね。気にかける必要はない。君は、僕達は前だけを向いていけばいい」 桜花は頷いた。その言葉に幾分か救われた気分になる。https://www.easycorp.com.hk/en/offshore それと同時に急な物悲しさに襲われた。もしかしたら、もう二度と会えないかもしれない。 当たり前なんて存在しないんだと痛感した。 「…さて、この話は此処までにして今度は僕が質問しても良い?」 「はい、どうぞ」 「その腰の刀、何という名なのかい」 吉田は桜花の刀に視線を移しながら真剣な表情を浮かべて尋ねた。その様子に違和感を覚える。 「薄緑と言います」 その返答を聞くなり、吉田は驚愕の表情を浮かべ息を飲んだ。 「そっか、君が……」 道理で引き付けられた訳だと吉田は納得する。清水寺に足を運んだのも必然だったのだと理解出来た。 「あの、それが何か…」 吉田は自身の腰から鞘ごと刀を引き抜くとそれを両手で持った。 「僕の刀はね、鬼切丸と言うんだ」 桜花はその名を聞いてハッとし、先日の夜の夢のような出来事を思い出す。 『時を迷いし者よ。願いがあるならば、「対…ですか」 桜花は首を傾げる。吉田は頷いた。 「ああ。だから僕は君の居た場所へと引き付けられたのだと思っている」 そう言われると、桜花にも心当たりがある。それはあの左胸の刻印の疼きのことだ。対である鬼切丸の所有者である吉田が近付いてきたから反応したという訳だろうか。 桜花は納得したような表情を浮かべた。 「まさか君が薄緑の主だとは思わなかったよ。どうして初め出会った時に気付かなかったのだろう…」 疑問符を浮かべた吉田であったが、その答えは桜花には分かっていた。 それはあの時にはまだ刻印が刻まれていなかった、つまりまだ刀に認められていなかったからである。 「これを見てくれるか」 吉田はそう言うと刀を樹に立て掛け、羽織を脱いだ。そして今度は躊躇いもなく、「えっと…不可解な点だらけだね。取り敢えず分かったことは、この刀の所有者には胸に紋が付くということか」 「ええ、正直まだ頭が追い付いていません。そうだ、吉田さんはその刀を持つことによって、何か変わりましたか」 桜花の質問に吉田は少しだけ考え込んだ。そう言った質問をするということは変化があったということなのだろう。 「変化…か。君は何か変わったのかい」 「私は…。私は、力が強くなった気がします。木刀を持つ手が軽いんです、とても」 桜花は自分の両の手のひらを見つめると固く握り締めた。木刀を手にした時の高揚感、軽量感は今までにないものだったことを思い出す。 「成る程。…残念ながら、僕にはその変化は無いようだ」 吉田は軽く腕を組み、考えるように右手で顎を触った。 「でも。これが現れてから、頭が透き通るかのように冴えた気がする」 気のせいかも知れないけれど、と付け加えながら吉田は京の町の方を見、釣られて桜花もその視線を追う。 二人の眼下には、いつの間にか夕焼けに染まった町が広がっていた。 烏が二、三羽、鳴きながら上空を飛び、西の方角へと飛んでいく。 その情緒溢れる街並みのなんと美しいことか。あまりにも雄大で幻想的な光景に思わず息を飲んだ。 「…ああ、もう日も暮れてきた。そろそろ降りよう。そうだ、君は今何処へ身を寄せているの?」 吉田の言葉に桜花は現実へと引き戻される。 「は、はい。…今は壬生にある新撰組屯所の八木家の使用人として置かせてもらっています」 その返答に吉田は驚愕の表情を浮かべた。 無理もないだろう、よりにもよって自分達を追い掛け、敵対とも言える集団の元に居ると云うのだから。