「ふふ、これで納得しました」
「な、何がです?」
沖田の言葉を聞い 頭髮稀疏 て現実に戻った桜花は首を傾げる。
「ほら、この間の大立ち回り。貴方が新撰組を振り切って逃げられたのは何故かと、疑問に思っていたのです。普通、我々に背を向けて逃げ切れる者などそう居ません」
あれは吉田さんが助けてくれたから、そう思ったが言えなかった。
「貴方の場合、特別腕が立つからいざという時には、刃を交えるつもりだったのでしょう?だから逃げることに集中出来たんだ」
合点がいったように沖田は笑みを浮かべている。
「い、いえ!そんなつもりなど…!ただあの時は必死で!」
血の気がサアッと引いた桜花は全力で否定した。
「ふふ、その様に否定しなくても。まあ、そうですねェ。貴方が敵に回らなくて良かった、この事だけは言えますね」
沖田は口角を上げてそう言う。表情こそは柔らかいが何処か殺気に似た重圧を感じた。
「…私も新撰組が敵に回らなくて安心しました。むしろ回したくないです」
「ええ、そうですとも。美しい鈴木君に刀を向けるなど、その様な真似…、この私に出来る訳がないだろうッ」
武田は握り拳を高々と空へ突き上げながらそう言い放ったが、沖田も桜花も相手にしていない。
唯一松原だけがアホ、とたった一言反応しただけである。
そんな微妙な空気の中、対戦相手であった馬越が近付いてきた。
「…鈴木さん。力強く、素晴らしい剣技でした。私の完敗です」
そう言うなり馬越は初めて笑顔を見せる。
美しい少女のような風貌の彼は笑うと小さな稽古を終えた桜花は自室に戻ろうと、階段を上っていた。
その時、後ろから呼び止められる。
「桜花は~ん、少し頼みがあるんやけど。今、ええ?」
それはまさだった。
「はい、大丈夫ですよ」
桜花はそのまま方向を転換して下りていく。
「すんまへんけど、勇太郎を湯浴みに連れて行って貰えへんやろか…」
そう言うとまさの後ろに隠れていた勇坊は前に出てきて満面の笑みを浮かべる。その顔や足には泥が沢山ついていた。
「この通り、泥だらけにしてしもて。為三郎は1人で行けるんやけど、勇太郎はまだ無理やろ思てなァ。かと言って為三郎に任せる訳にもいかへんから…」
「ええ、勿論良いですよ。勇坊、私と一緒に行こうか」
目線を合わせて桜花がそう言うと勇坊は元気よく返事を返す。
「ホンマはうちが行ければええんやけどな。その…、お馬になってしもて…」
お馬というのは現代で云う月経のことだ。言われてみれば、まさの顔色が優れないように見える。
「成る程…。勇坊の事は私に任せて下さい」
「おおきに。勇太郎、案内したってな。桜花はんの言う事をよう聞くんやで」
「わかった!俺に任しときィ!」
勇坊は胸を大きく張った。その光景にまさと桜花は微笑ましそうに笑う。
勇坊は何故二人が笑っているのか分からずに首を傾げていた。
まさから二人分の手拭いや着替え、糠袋を受け取り、桶に入れた桜花は勇坊と手を繋いで家を出る。
この時代では糠袋で身体を洗っていた。
「おう、勇坊。何処へ行くんだい」
門を出て、少し歩いたところで近藤と土方に出会した。
「ん、俺らはな~、今から湯浴みしに行くんやで!」
「そうか。ならばしっかり、この泥を落として来るんだぞ」
土方はフッと笑い、勇坊の頭を軽く撫でる。
「結構結構!男子たるもの、腕白なくらいが丁度良い。じゃあな。鈴木君、勇坊を頼むよ」
「は、はい!」
桜花は反射的に背筋を伸ばした。そして二人が去るのを見届けると、ホッと胸を撫で下ろす。
その後、二人が向かった先はある家だった。