「ほら、ええ加減にせな、兄ちゃんが困っとるやろ。済まんなァ。この通り、冗談好きなおもろい奴等ばっかり居んねん」
ヘラヘラと笑う松原を見て桜花は苦笑いをする。
「改めて、期貨交易 ワシはや。副長助勤をしとる」
松原忠司はや。副長助勤をしとる」
松原忠司はの藩士の子として生まれる。を修めている。同じく副長助勤だ。あんたがソノ気になったらいつでも言ってくれよ」
原田は伊予松山の生まれである。見た目は背丈の高く目鼻立ちのハッキリとした色男であり、女からよく恋文を貰っていた。酒と女と喧嘩が大好きであるが、実は一途だと言われている。近藤の試衛館の食客として過ごしていた。
「俺はを自在に扱うことが出来る。また評判になるほどの美男子であった。戦いとなると勇ましく一番に斬り込んでいくことから"、無外流。副長助勤。年は平助と同じだ。先程は付け回してしまい、済まなかったな」
斎藤は江戸の生まれであり、試衛館に出入りしていたが江戸発の浪士組には参加していなかった。後々に近藤らを慕い、入隊する。見た目は三白眼に、艶やかな黒髪の持ち主であった。鋭い目付きや物静かな一匹狼という点から色々と誤解を招きやすいが、根は誰よりも素直であった。
思ったより新撰組隊士は若く、藤堂や斎藤辺りは自分と年齢が変わらないということに桜花は衝撃を受ける。
「私は鈴木桜花です。八木家の使用人として働くことになりました。お好きなように呼んで下さい」
桜花は頭を下げた。其処へ藤堂が身を乗り出す。好奇心に満ちた瞳に迫られ、桜花はたじたじになった。
「ねえねえ、剣術はッ?何処の流派?五人の浪士相手に大立ち回りしたんでしょう」
「えっと…。流派とかは分からなくて。あれは無我夢中だったから、火事場の馬鹿力だと思います…。故に、近藤局長の好意でご指南頂く予定です」
の初巻が居たと云う。少なくとも其奴等を容易に凌ぐ程の腕を持っているのだ、あんたは」
松原と斎藤は素直に称賛している。桜花は照れ臭くなったが、この時代に生きていないためにその価値が分からなかった。
桜花は話題を逸らそうと、部屋の中を見渡す。すると壁に打ち付けてある一枚の紙が気になった。
「あの、あれは…」
桜花はそれを指差した。ああ、と原田は口を開く。
と言うんだぜ」
それは新撰組に存在する鉄の掟のことである。
一、士道ニ背キ間敷事
一、局ヲ脱スルヲ不許
一、勝手ニ金策致不可
一、勝手ニ訴訟取扱不可
一、私ノ闘争ヲ不可
「これらに背いたものは切腹だ。それくらいの覚悟を持って皆、隊務に臨んでおるのだ。ここは武士に憧れど、家柄のためになれなかった者が多く属している」
斎藤はそう淡々と話した。
そう、新撰組は身分の是非を問わずに様々な事情を抱えた者が属していた。
「武士の真似事だと馬鹿にされることもあるが、我等は誇りとして仕事をしている」
桜花はそれを聞いて自然と鳥肌が立つのを感じる。歳の変わらない青年が、既に命の重みを知り、そのやり取りをしているとは夢をも思わなかった。
「安心しろ。あんたは隊士では無い故、それは適用されぬ」
「まあ、俺は一度切腹をして死にぞこなっているから、怖くも何ともねえけどな」
原田はそう言うと着物の衿を持つとガバリと開き、腹にある一文字の古傷を見せた。
昔、口論になった際に『腹切る作法も知らぬ下司野郎』と罵られたために実際に腹を切ってみせたという。