外套が破れ、甲冑に若干のへこみや傷があるが孫策自身は全くの無傷。黄蓋は少しばかり怪我をしているが、目下のところそばを離れて治療するといったほどではない。樽を椅子代わりにして将校が集まっている場に案内されると、すぐに島介を見付ける。
「島将軍、孫伯符です!」
一報は受けていたが、避孕方法 争いの跡がそれなりに見て取れたので島介はいくつかの状況を想定し、最悪である部分を見越し近侍に洛陽の偵察を命じさせた。
「孫策か、その恰好はどうした?」
「要所の砦を通過するに際して、守備兵に邪魔だてをされたので一戦して参りました」
はきはきとこともなげに言う姿に好感を持つ。恨み言も焦りもない、ただ事実のみを簡潔に報告する態度が、軍人として誠に宜しいと。
「ははははは、襲ってみたら相手が孫策では、守備兵も災難だったろうな」
冗談を飛ばして椅子代わりの粗末な樽を勧めると、用件を尋ねた。ここは宮殿でも無ければ、格式にこだわりたいと思う高官や諸侯らは誰もいない。
「手勢を幾らか失いましたが、それに十倍する敵を切り捨てました。父上ですが洛陽城に入り今宵を明かす予定です」
「うむ、どのような状況だった?」
現状を知る者の言葉を聞きたいと荀彧が耳を澄ませてじっと孫策を見詰めている。
「はい、街も宮殿も焼け落ち、人の姿はなく、全てが持ち去られ破壊されていました。廃墟という言葉がしっくりとくるでしょう」
答えは解っていたが、それを目にした者が口にするとまた重みが違った。真っ新な土地に街をつくるのよりも、これを復興させる方がより難しいのは恐らく多くが想像するだろう。「そうか。それで孫堅殿は」
「軍に補給が全く届かず、孟津の島将軍に食糧を借りることが出来ないかと自分を派遣しました。袁術様が約束を守らなかったのか、それともどこかで襲撃にもあったのか不明ですが、現実に兵が腹を空かせている始末。恥ずかしいことではありますが、どうか拝借させていただけないでしょうか」
孫策と黄蓋が頭を下げる。こうなることが目に見えていたので、事前に忠告はしたのだがやはりそうなった。だからとそれを指摘しても関係性が悪化するだけで何の利益もないが。
「ああいいだろう、わざわざ孫策が来たんだ、手ぶらで帰らせたら俺が笑われてしまう」
立ち上がると片膝をついて拳礼をし「快い返答、父孫堅に代わり感謝を申し上げます!」その場で頭を下げた。
「なに気にすることはない、座れ。しかし洛陽への道にはまだ砦があり董卓の兵が詰めている、準備は今からするが部隊を動かすのは明日の朝になるぞ」
そのころには洛陽へ出した偵察も戻って来るだろうから、それも併せて判断を下すつもりだ。無理を要求しているのは孫策の方なのでそれには素直に頷いた。一日戻りが遅くなろうとも、どうにかしているだろうと信じて。
「はい、洛陽へは自分が先導します」
恐らくは孫策が出来る何かの全てがこれだ、将来有望な若者に対し、幕の皆が好感を持ったのが分かった。
「まずは飯を食って傷の手当てをし休むんだ、場所は用意させる。文聘、手配と案内を」
「承知致しました。こちらへどうぞ」
細かいところに気が利く上に、当たりが柔らかい文聘を指名して対応させる。孫策らが幕を出て行くと、残る者らで続きを行う。