「そうではない。何もは天下人になりとうて、信長様を討ったのではない。日の本のみならず、 明や朝鮮へも戦火を広げようとなさる、あのお方の愚行をおめする為の、苦肉の策であった」 「よう存じ上げておりまする」 秀満は端然と頭を垂れる。 「故に儂は、長らくこの座に留まるつもりはない。儂の天下など、せいぜい百日。いや、五十日あれば良い方じゃ」 「五十日とは…。ならばその後は、どうなさるおつもりで?」 行政が訊くと 「天下は我が子・十五郎(明智)か、https://plaza.rakuten.co.jp/mathewanderson/diary/202409270000/ https://blog.goo.ne.jp/debsy/e/ea85160d703442ddaf43a511e970fab9 https://freelance1.hatenablog.com/entry/2024/10/09/190245?_gl=1*hwjack*_gcl_au*MTY1Nzk5NjI1Ni4xNzI3NDMyMzI5 娘婿のに譲り渡して、儂は早々に隠居する所存じゃ」 光秀は迷いなく述べた。 実際に光秀は、娘・玉(後の細川ガラシャ)の嫁ぎ先である前田家に宛てた書状の中で “ 五十日か百日の間に近国を固めたら、後は息子の十五郎や忠興に天下を渡して、隠居するつもりである ” と綴っており、自身が天下に立とうとする野心がなかったことが窺える。 「上さ…、いえ、殿はどこまでも、無欲なお方でございまするな」 利三が力なく笑うと、光秀はそれにもかぶりを振った。 「いいや、儂にも欲があった。天下安寧という多大なる欲──その欲が、此度の謀反を引き起こしたというても過言ではない」 ふと夢想にるような面持ちになって、光秀は視線を宙にあそばせた。 「儂は、これまで多くの苦しむ民の姿を見て参った。貧困にあえぐ者、親兄弟を殺された者、満足な治療を受けられずに死にゆく者…。 儂はそのような者たちを目にする度、切に戦乱の世が早よう終わることを願ごうた。が、人々から豊かさをうているに他ならぬと」 「…殿」 利三たちは光秀に視線を向けたまま、ゆっくりと頷く。 「いつか戦の世を終わらせ、民たちを戦火から救うのが儂の使命と心得て生きて参った。──それは、これからとて変わらぬ」 無造作に動く光秀の瞳が、急にぴたりと止まり、居並ぶ重臣たちを見据えた。 「例え謀反人とられようとも、それが民たちの、ひいては国のに繋がるのであれば、 汚名の一つや二つ儂は怖うはない。微力ながらも、このまま天下安寧に向けて、突き進んで参る覚悟じゃ」 一同はを引き、背筋を立てて主君を見据えた。 「信長様、信忠様の首をいずれも手に出来なんだのは痛手であるが、いていても致し方ない。今は出来ることをして参ろう」 「ははっ」と重臣たちが低頭すると 「…時に、この安土の城におられたお方々は如何なされたのだ?」 光秀は誰となく伺った。 「三日に日野城主・殿、その嫡男・殿が参られて、大方様を始めとする婦人方、御子たちを連れて日野城へと退去なされた由にございます」 秀満が朗々と答えると 「左様か…。蒲生よりの力添えが得られなかったことは、今でも惜しく思う」 光秀は思い出したように呟き、軽く溜め息をいた。 光秀は、蒲生賢秀の元へ布施忠兵衛や多賀豊後守を遣わして、先の山岡兄弟同様にこちらの味方に付くようにと嘆願していた。 『 もしもお味方して下されるのであれば、折を見て近江半国を譲り渡すことをお約束しよう 』 と多大な申し入れをしたが、やはり信長から受けた恩を理由に、協力を拒絶されたばかりであった。 「を制圧する為には、一人でも多くの味方が欲しいところじゃが……。光忠よ」 「はい」 「力添えを求めた諸将たちはどうなった?あれから何か返答は?」 「畏れながら、んどのお方は返事すらもしませぬ」 「…そうか…」