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「ならば、そのお気持ちをお大切に

「ならば、そのお気持ちをお大切になされませ。いずれ明智殿にも── 

 

と話していた時 

 

「 !   し、失礼 

 

秀貞は急に口に手を当て、みになりながらゴホッゴホッと咳き込み始めた。 

 

やがて「ゔ!」とのような声を漏らした秀貞の口から、 

 

っている手の間を突き抜けて、赤黒い血がぽたぽたとり落ちた。 

 

濃姫は一驚し、思わず腰を浮かせる。 

 

──林殿。そなた、まさか!」 

 

秀貞はの表情を浮かべながら、胸元から取り出した懐紙で素早く口元をうと 

 

「いやはや、肺の病の進行が、某が思うていたよりもずっと早く、まことに驚き入り申した」 

 

そう述べながら、弱々しくんだ。 

 

「御台様……この織田家に半生をげた、老いれへの、最後の情けと思うてお聞き入れ下さい」 

 

── 

 

「どうかこのことは、上様にも、他の誰にも申して下さいまするな。と定めたの地で、 

 

誰にも悲しがられることも、迷惑をかけることもなく、ただひっそりと、己の生涯を終えたいのでございます」 

 

林殿 

 

「禍根を残さず、後腐れなく亡くなることが、某が最後に出来る、上様へのご恩返しでもあるのです」 

 

どうかお聞き入れ下さいませと、秀貞はそれはしく頭を垂れた。 

彼が、わざわざ安土城へ忍んでやって来たのは、移住の挨拶ではなく、 

 

かつての主君にの別れ告げるためだったのだと、濃姫はそこで初めて気が付いた。 

 

驚き、悲しみ、慈愛と、様々な感情がわき上がり、濃姫はいつの間にか涙ぐんでいた。 

 

秀貞の、座を退いても変わらぬ信長への忠義心に、心打たれたのかも知れない。 

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……分かりました。それがあなた様のお望みであれば、上様には黙っておきましょう」 

 

「のう存じます」 

 

「その代わり、一つ、約束して下さいませ」 

 

  ?   

 

「どうか、最後まで、生きることを諦めないで下され。例え己の死期を察していたとしても、 

 

この後も療養に尽くし、一日でも長ごう生きられるよう、あなた様なりにいて下さいませ」 

 

「御台様 

 

「上様はこれまで、何十、何百という家臣をにて失われ、時にはその死に涙を流されることもあられた。 

 

死することではなく、一日でも長く生き続けることが、上様へのまことの忠義であると、左様にし召されませ」 

 

濃姫は優しく、囁くように告げた。 

 

秀貞は目頭を熱くし、の涙を流しながら 

 

……はい、はい御台様 

 

と何度も頷くのだった。 

 

 

 

 

 

 

そんな同日の夜。 

 

光秀や秀貞の件もあり、心波立っていた濃姫に、思いがけず嬉しい出来事があった。 

 

安土城の一室で、信長の晩酌の相手をしていた濃姫は、パッと顔を輝かせる。 

 

「上様──それはまことにございますか !? 

 

「ああ。儂がこの日の本を離れる前に、済ませておきたいと思うてな」 

 

「それは、実に素晴らしきお考えにございまする」 

 

濃姫が手にしていたを置き、一礼の姿勢を取っていると 

 

──上様、り越しましてございます」 

 

ふいに部屋の外から蘭丸の声が響いた。 

 

「儂が呼んだのじゃ。申すなら早い方が良いと思うてな。……構わぬ、入れ」 

信長が入室を許すと、蘭丸は閉ざれていた戸襖を開き、静かに部屋の中へと入って来た。 

 

「よう参った。へなおれ」 

 

「失礼つかまつります」 

 

蘭丸は夫妻の前に控え、深々と頭を垂れる。 

 

「お呼びでございましょうか?」 

 

「ああ。はそちに、良い話がある」 

 

蘭丸は軽く眉をひそめながら、すっと鎌首をもたげた。 

 

「そなたと胡蝶とのことじゃ」 

 

「胡蝶様いえ、姫様とのことで、何か不手際がございましたでしょうか?」 

 

「そうではない。 ──その、胡蝶とはここ一年あまりで、だいぶ 

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