• 「そうか。

    「そうか。気を付けて行ってくるんだぞ」  よしよしと大きな手が沖田の頭を撫でた。まるで兄弟のようなやり取りである。 「はい。近藤先生も」  笑みを返して別れると、沖田は自室へと戻った。 http://kotone22.blogaholic.se/2023/dec/191924/22806124343521112428124001228912414123842281226126123691239936/ https://suzanwines.blogspot.com/2023/12/blog-post.html http://jeffrey948.eklablog.com/-a215066987 すると、後ろ手で障子を閉めるなり口元を抑えて咳き込み始める。  痰が絡み、懐から懐紙を取り出してその上へ吐き出した。それには鮮やかな血が混じっている。  沖田は眉を下げて顔を歪めると、その場にズルズルと座り込んだ。 ──明らかにが進行している。いつかはこうなると分かっていたけれど。 「……困ったなぁ」  ぽつりと呟いたその声には寂しさが滲んでいた。そう遠くない死を感じる度に、人恋しくなるのだ。本能だろうか。誰かに抱き締めて欲しい、一人にはなりたくないと強く思ってしまう。  誰かに知れれば、情けないと呆れられるだろう。故に新撰組の沖田総司は最後まで強くあらねばならぬのだ。 また一方、桜司郎は土方と共に八坂を北へ過ぎたあたりにある小さな料亭へ来ていた。  中庭の見える一室では、上品な立ち振る舞いの父親とその娘、そしてその向かいには土方と桜司郎が座っている。 「──この通り、私には許嫁がおります故。誠に恐縮ですが、お嬢様のご期待には添えかねます」  土方は堂々とした居住まいで発言した。事前に、桜司郎に対しては一言も喋らなくて良いと打ち合わせている。ただ、背筋を伸ばして穏やかに微笑んでおけとのことだった。 「……そんな。は土方様をお慕い申しておりますのに……」 「こら。御相手がいる殿方に、かような事を申すでない。はしたない」  今にも泣き出しそうな娘を、父親が諌める。気が強いのか、どうしても諦めきれないのか、娘は桜司郎を睨み付けた。  江戸にて琴から受けた視線を思い出しては、肩が竦みそうになる。 「貴女は、土方様のどこをお慕いしているといいますの?先程から畳の目ばかり数えて、まるで気持ちを感じられませんわ」  その言葉にドキリとした。一日だけの偽造許嫁なのだから、気持ちが無くて当然である。 ──お琴さんの時は何も言い返せなかった。けれど、私はもうあの時のように弱くなんかない。それに、女と分かっていても隊に置いてくれた副長へ恩を返さねば……。  そう思った桜司郎は小さく深呼吸をすると、今一度背筋を正した。  そして遠い昔に愛した吉田と、胸の中に芽生えかけた蕾を咲かせようとしている人物の顔を思い浮かべる。  その表情のまま、土方をそっと見やった。 「……私は。己の事よりも仲間を思い、隊を思い、そして向きにご公儀へ忠義を尽くす。そのような歳三様を……」  髪に挿してもらった簪に付いている、銀細工がシャンと揺れる。 「心よりお慕いしています」  穏やかに、けれども心を込めてそう言えば室内はシン……と静まり返る。  その言葉があまりにも予想外だったのか、土方はポカンとしていた。 「は、ははは!これはこれは。こちらまで照れ臭くなるほどの熱い思いでござるな。……分かったろう、お前に入る隙は無いのだ。諦めなさい」  言葉を失った娘は、唇を噛みながら俯く。はい、と呟くと立ち上がり、隣の部屋へ行ってしまった。  上手く務めを果たすことが出来たのだろうか、と思いつつ土方へ再度視線を移すと、真面目な表情ながらも目元と耳を真っ赤に染めていた。


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