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それから一月ほどは存外
それから一月ほどは存外穏やかに過ごすことが出来ていた。
稽古を重ね、沖田との時を大切にし、そしてとにかく己の足跡を探して街を歩いた。
あの地獄のような伏見の戦いが嘘のような日々だったが、https://blog.udn.com/79ce0388/180113269 https://plaza.rakuten.co.jp/aisha1579/diary/202311290005/ https://blog.goo.ne.jp/debsy/e/78d9e01a09a33265b75f6c9d7abb5a3b 偽りの平穏とはいつか崩れるものである。
「──豚一……いや、慶喜公が寛永寺に謹慎だと?」
十畳ほどの部屋に原田の怪訝そうな声が響いた。
新撰組は屯所を釜屋から、江戸城の近くにある鍛治橋門外の秋月邸へと移していた。中庭の苔の上には霜が降り、射し込む陽光に照らされて輝いている。
は、恭順の意を示すため……だと」
「恭順……ね」
土方の言葉を永倉は繰り返した。不快と不安が入り交じったような表情をしている。
それもそのはずで、総大将ともあろう立場の人間がさっさと大坂から退いた挙句に、膝元へ戻るなり薩長へ恭順すると言っているのだ。
早速不穏な空気が漂い始めるが、そこへ近藤のハキハキとした声が響く。
「皆、心配するな。まさか徳川が本気で恭順などするはずがない。謹慎とは単なる時間稼ぎであり、その隙に再起を図ろうとされておられるのだろう」
「……だが、現に大坂から逃げ果せているじゃねえか」
徳川の威光を信じて止まぬような振りを見せる近藤に対して、永倉はやや不満がありそうな様子だった。
そこへ土方が咳払いをする。
「……永倉の言わんとしていることもよく分かる。だが、お上も色々と考えているようだ。早速、俺たちにゃ出陣命令が下ったよ」
その言葉に、室内が僅かに色めき立った。この一ヶ月の間に聞こえてくるのは、幕府が及び腰になっている噂ばかりであった。
故に、戦と聞いて士気が上がらない訳がない。
そこへ黙って聞いていた桜司郎がスっと手を挙げた。
「戦場はどちらですか」
「甲府だ。俺たちはと名を改め、軍を進めることになる」「甲陽、鎮撫隊……?」
土方の言葉を、怪訝そうに繰り返す。
「そうだ」
「新撰組では駄目なのですか」
それを思ったのは桜司郎だけでは無かった。永倉や原田、山口も頷いている。以前の新遊撃隊のように無理やり改名させられるのではないかと、眉を寄せていた。
「行くのは俺たちだけじゃあェからな。それも一時的なものだと云うから、我慢してくれ」
つまりは烏合の衆で薩長を迎え撃たねばならないのか、と山口は胸の内で思った。けれども決して口には出さない。
「甲府……ということは、甲府城で西からやって来る薩長を迎撃するってことかい」
永倉の問い掛けに、近藤は大きく頷いた。どこか誇らしげに胸を張る。
「そうだとも。あすこはその昔、家康公の時代から江戸の西を守る拠点として重要だったのだぞ。……しかも、だ。我々が先行して城へ入り、薩長を打ち払って本陣とすれば、そこへ慶喜公がお入り頂ける算段となっている」
その言葉に、室内にどよめきが起こった。
「す、すげえッ!そりゃあ何としてでも甲府を抑えねえとだッ。なあ、新八!」
「ああ!」
純粋に瞳を輝かせて喜ぶのは原田である。そして意外にも、こういうことには冷静になる永倉も歓喜の色を浮かべていた。
だが、それとは反対に山口と桜司郎は浮かない表情となっている。
「……上様は、未だに上野へご謹慎遊ばせておるのだろう。真に甲府入りなどされるのか」
「無論だとも。現陸軍総裁であり、慶喜公からのご信任も厚い
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