• 波を打つ音を聞きながら

     波を打つ音を聞きながら、近藤は空を見上げる。そこには満点の星が瞬いていた。

     

     

    「局長……?」

     

     

     やはり今日は様子がおかしい。https://lefuz.pixnet.net/blog/post/120983065 http://janessa.e-monsite.com/blog/--89.html  https://www.evernote.com/shard/s330/sh/78e7d348-8625-8066-4184-cdb8aa7be576/RKX6zrF5LEryaXQtqqs8seqLuTgvRxcwVquztUmjXJUMImkVIsGdG98dTg

     

     

    ……総司について松本法眼から聞いたか?」

     

     

     その問いに、ドキリとした。もしや、先日の会話を聞いていたのだろうか。尾行されているとは感じなかったが、近藤のほどの剣客ともなれば気配を消すことは容易かもしれない。または近藤は近藤で聞いたのか。はたまた、カマをかけられているのか。

     

     

     あれこれと思案を巡らせていると、額に薄らと汗が浮かぶ。しかしあまりにも抽象的な問い掛け故に、何を指しているかは分からない。

     

     

    「沖田先生について、とは……?」

     

    「そうか、何も聞いておらなんだか。……実はな、総司を医学所から別の場所へ移そうと思っている」

     

     

    『そろそろ沖田君を他に移す話しも出ているんだが……

     

     

     その言葉に、松本のそれが重なった。

     

     

    「べ、別の場所って何処ですか……?」

     

    「本当は多摩か、総司の姉さんのところが良いのだろうが……迷惑を掛けたくないと頑なに嫌がってな。兼ねてから付き合いのある、植木屋のところへ頼むつもりだ」

     

     

     植木屋、と桜司郎は独りごちる。意外なところだと思った。しかし、それは良いのかもしれない。まさか新撰組の一番組組長が、そのようなところで養生しているとはゆめゆめ思わないだろう。

     

     いくら病人とはいえ、沖田を狙う者は多い。バレぬためにも、医学所のように出入りは叶わなくなる。となると、別れの時は近いのではないか。──仕方のないことなんだ。沖田先生には少しでも生きていて貰わなきゃ困る。会える時を大切にしないと……

     

     

     桜司郎は切なく顔を歪める。暗闇の中だったために、近藤にそれはバレなかった。

     

     

    「お、沖田先生は……それを了承したのです?」

     

     

     その問いに、近藤は否と首を振る。

     

     

    「俺たちについて行きたいと言われたよ。……そう言われると、心苦しくなる。あいつには長く生きて欲しいと思う反面で、武士として死なせてやらねばと思う気持ちもあるんだ。俺たちが、総司の引き際を見誤ってるんじゃねえかね……

     

     

     それを聞くなり、桜司郎の中にはひとつの違和感が生まれた。

     

     

    ……局長、もしかして先程の問いは……沖田先生の死に際を考えてのことですか」

     

    ……ああ。そうだ」

     

     

     穏やかな肯定を聞き、桜司郎は己を恥じた。すっかり近藤のことであると決め付けてしまっていたのだ。

     

     恐らく、沖田の前で思い悩むような素振りをしたのも、他でもなく彼のためだからだろう。

     

     

    「本当は、伏見の戦で死なせてやれれば良かったのかも知れない。俺が怪我なんぞしたものだから、大坂へ道連れにしてしまった」

     

     

     それには肯定も否定も出来なかった。近藤の言う通りなら、井上の立場が沖田になった未来もあったのかもしれない。

     

     それならば、沖田の武士としての面子も立ったのだろうか。

     

     

    ──いや、私がそれを嫌がるかもしれない。共に行くと言って困らせていただろう。

     

     

    ……そうならなかったのは、沖田先生の運命です。局長のせいではありません」

     

    「そうか。そう言ってくれるのか、君は。……優しいな」

     

     

     フッと笑うと、近藤は桜司郎に向かい合うように立った。

     

     

    ……どうも君を見ていると、昔に会った男を思い出す」

     

    「昔に会った男、ですか」

     

    「ああ。縁もゆかりも無かったのに、影で虐められていた総司を助けてくれた男がいてね。恥ずかしながら、それを機に俺はそのことに気が付いたんだ。……もしかすると、は総司を救うために現れたんじゃねえか……って今でも思うている」

     

     

     ドキリと鼓動が一際高く脈を打ち、同時に左胸の痣が疼く。

     

     

    ──何だ、この感覚。思えば私の存在理由なんて一度も考えたことが無かった。

     

     

     動揺を抑えるように、思わずそれへ手を当てた。桜司郎の瞳が揺れたのを近藤の双眸は捉えている。

     

     

    ──なんてな、冗談だ。そのように険しい顔をせんでくれ。帰ろう」

     

     

     にかりと歯を見せて笑うと、今度こそ釜屋へ向かって歩いていった。


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