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随分と単刀直入な問いだ
随分と単刀直入な問いだと松本は薄く笑う。立ち止まると、腕を組んで眉を寄せた。
桜司郎もそれに倣って足を止める。
風が吹けば、https://plaza.rakuten.co.jp/aisha1579/diary/202311290004/ https://blog.goo.ne.jp/debsy/e/95c9061eb5d4f2919aca033d438deb39 https://freelance1.hatenablog.com/entry/2023/11/29/181654?_gl=1*fhditu*_gcl_au*MTU2NTI2NzMwOC4xNzAxMTcwMDU2 背の高い草が音を立てた。
「……少なくとも、春を越すことは出来ねえだろう。桜を見れたら上等だと思っている」
その言葉に、どきりと鼓動が鳴る。春と言えば、あと三月程度しかない。
──沖田先生が、居なくなってしまう……?
自分から聞いたことだと云うのに、息苦しくなった。大切な人が目の前から消えていくのは、何も初めてでは無い。それでも、胸の奥がざわついて仕方がなかった。
「一体どうして運命って奴ァ、良い人間ばかり攫っていこうとしちまうのかねェ。……何の慰めにもならねえが、今の世じゃどれだけの健康体であっても、鉛玉でお陀仏しちまうこともある。最後が分かっているだけ、やりようはあるんじゃねえのか」
その言葉は井上や山崎を連想させる。だが、戦場と床の上──どちらが死に場所として良いのかは分からなかった。
少なくとも沖田は前者を望むに違いない。そして周囲もそうさせてやりたいと思うだろう。
「やりよう……」
「そうだ。もっと静かな場所で療養させてやれば、春を越して初夏くらいは見せるかも知れねえ。そこにあんたが居れば尚更だ。……男ってのはな、惚れた女には格好付けたいものなのよ。どれだけ辛くとも、抗おうとするんだ」
それは僅かな希望に聞こえた。
しかしそれでも桜司郎の顔色は曇ったままである。
「……沖田先生は、きっと戦場でれることを望むと思います」
「沖田君なら……そうかもしれねえなァ。武士ってのは難儀な生き物だよ、本当に」
「…………そうですね……」 沖田の余命について聞いてから、桜司郎は毎日のように医学所へと通った。
負け戦に傾いている今、組長の立場である己が松本の言うように沖田の療養を支えることはならぬと分かっている。いつ戦へ駆り出されても可笑しくはない。ひょっとすると、沖田よりも先にあの世へ逝く可能性だってある。だからこそ、僅かな時だけでも共に居たいと思ったのだ。
そんなある日のことだった。いつもよりも半刻ほど遅く出たせいか、既に日は傾き始めていた。医学所から釜屋までは一刻はかかる。
着く頃には夜になっているだろう。
足早に向かおうとすると、背後から「おーい」と声を掛けられた。振り向けば、そこには近藤の姿がある。
「局長。如何されましたか」
「釜屋へ帰るのだろう?俺も一緒に行って良いだろうか」
その申し出に、桜司郎は目を丸くした。
「えっと、副長は──」
「歳の許可ならもう得た。君が伴ならば問題ないと」
「それなら駕籠を──」
「無用だ。たまには歩かねば、足腰が弱ってしまう。として、それは致命的だからなァ」
問い掛けに対し、近藤は既に用意してあったかのように間髪入れずに返答する。もはや否とは言わせないつもりなのか、支度も済んだ状態だった。
小姓の一人も付けず、桜司郎の伴だけで釜屋まで帰るのだという。
「分かりました……。もしお傷に障るようなら、途中で駕籠を呼びます。遠慮なく仰って下さい」
「うむ。有難う」
吹き付ける風は冷たいが、それよりもいつもと様子が違う近藤のことが気になって仕方が無かった。
『……近頃ね、近藤先生の様子が可笑しいと思うことがあるのです。溜め息を吐いたり、思い悩むような険しい表情をしたり……』
先日聞いた沖田の言葉も相俟って、余計な勘繰りをしてしまう。
ちらりと横目で見遣れば、江戸の街並みを懐かしむように目を細めている。
──思えば局長と二人で歩くなんて初めてかも知れない。何を話せば良いのか……。
そんな桜司郎の心情を察したかのように、近藤が口を開いた。
「……なあ、榊君。君はよくここまで着いてきてくれたなァ」
突拍子もない言葉に驚きつつ、どこか感傷を含んだそれに胸の奥がざわつく。
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