• をしているぞ」

    をしているぞ」 「そうか?」 「ああ。江戸で良いことでもあったのか?」 「良いこと……」  近藤の問い掛けに、easycorp 土方はをしているぞ」 「そうか?」 「ああ。江戸で良いことでもあったのか?」 「良いこと……」 をかいた腿の上に肘を立てる。視線を彷徨わせれば、江戸での出来事が脳裏に浮かんだ。平助に斬り掛かられたこと、桜司郎が女だと分かったこと、伊東と少し和解したこと。 割に濃い内容の旅だったと目を瞑り、思い出し笑いをするように口角を上げた。 「いや……、そこまでだな。忙しくてそれどころじゃなかったよ」  だが、土方はそれを自身の胸の内に秘めることに決める。伊東の件に関しては言っても良かったのだが、気恥ずかしさもあった。その返事に、近藤は宛が外れたかと首を傾げる。 「そうか……。ああ、そう言えば例の件はどうなった?歳は納得してねえかも知れないが……」 「伊東の参謀就任か?俺ァ構わねえよ。癪じゃねえとは言い切れないがな。彼奴の頭が新撰組に必要だと、大将が決めたんなら従うぜ。……後、あれだな」  江戸へ隊士徴募に行く前に、山南亡き後の役職を"参謀"という形で伊東に継がせる旨の話が近藤から持ち掛けられた。しかし、土方はあからさまに嫌な顔をして考えるとだけ言って出立していったのだ。  ところが、今はどうだろう。憑き物が落ちたように穏やかに伊東の存在を受容しようとしている。やはり、江戸で何かあったんだなと近藤は悟った。  土方は立ち上がると、の中から巻物を取り出す。近藤の元へ戻り、座るとそれを前に広げた。そこには新たな組織図の案が書かれている。 「ふむ、やはり一番組は総司だよな」  近藤は顎に手を当て、それらにザッと目を通した。もう夜も遅いからと細かいことは明日話し合うことにして、その場はお開きになる。  部屋から出ようとした近藤は、ふと立ち止まって振り返った。そして眩しいまでの笑顔を浮かべる。 「……歳、俺はお前のやりたい事なら何でも乗っかる。お前が言わねえと決めたことは俺は聞かねえ。だから、何でも遠慮せずにやってくれよ。じゃあ、お休み」  まるで土方が隠し事をしたことを見抜いたかのようなそれに、ドキリとしながらも近藤の背を見送った。 「……ったく、適わねェよなァ」  器の広い近藤を見ていると、心配事も悩み事も吹っ飛ぶ気がする。きっと、どんな酷い嵐も困難も共に居るなら乗り越えていけるのだ。そして、願わくばこれ以上誰も欠けることの無い未来が欲しい。  そうやって夢を見て此処まで来たのだ。 明日からまた忙しくなる、と土方は欠伸をすると空を見上げた。 初夏が過ぎ、梅雨を迎えた頃。雨を含んだ土の匂いを肺いっぱいに吸い込むと少しだけ甘い気がした。  桜司郎は久々に友人である、茶屋の花の元へ来ている。入隊したことや改名をしたことは年回りの挨拶で花は知っていた。 「今年の梅雨は、雨が降りそうやなぁ……」  軒先からはポタポタと雨粒が滴り落ちる。激しい雨が降ったり、小雨になったりを繰り返しているせいか客は桜司郎以外に居なかった。  それもあってか、花の父親がもう今日は店終いをすると言う。桜司郎は花に誘われて、店の奥で話しをすることになった。  湿度が高いためにじめじめと室内は蒸す。花は何処かからか団扇を取り出してくると、桜司郎にも渡した。 「私、お花ちゃんのお父さん初めて見たかも知れない」  それを受け取り、パタパタと仰ぎながら柔和な男性を思い返す。花は母親似なのだろうか、あまり似ているとは言えなかった。 「普段は裏で団子やら拵えてはるからねぇ。うち……、二親ともちっこい頃に亡くしてはるんよ。今のお父はんは親戚の叔父なんどす」  花は悲哀の欠片も混ぜずにからりと言う。 「  近藤の問い掛けに、土方は


  • Commentaires

    Aucun commentaire pour le moment

    Suivre le flux RSS des commentaires


    Ajouter un commentaire

    Nom / Pseudo :

    E-mail (facultatif) :

    Site Web (facultatif) :

    Commentaire :