• なのか、それともこれも必然だ

    なのか、それともこれも必然だったのか。

     

     いずれにせよ、土方より与えられた時間は本日のみ。藤を看取る時間など無い。戦は待ってはくれぬのだ。母の世話をするか、それとも新撰組へ戻って戦に出るか。その二択しか無かった。

     

     

     そこへ与三郎がやってくる。

     

     

    「ど、どねえしましたか」 https://ameblo.jp/carinacyril786/entry-12831646478.html https://www.liveinternet.ru/users/carinacyril786/post502386354// https://www.bloglovin.com/@carinacyril/12259399-12259399

     

    …………思い出してしまったの。このは、母なんです…………。私は……親よりも先立ってしまった上に、母の最期を看取ることに躊躇する不幸者だ……!」

     

     

     ポロポロと涙を流す桜司郎を見て、いまいち言葉が分からぬと与三郎は小首を傾げた。

     

     

    ──親よりも先立ったとはどねえな意味じゃ。まるで訳が分からんが、この者が妄言を吐くとは思えん。

     

     与三郎は考え込むと、この状況から一つの答えを導き出した。

     

     

    …………私が、看取ろうか?」

     

     

     その言葉を聞き、桜司郎は目を丸くする。

     

     

    「行かんにゃあいけんのじゃろう?ほんなら、私が母君の世話を引き受けちゃる。……前に恩を返すと言うたじゃろう」

     

    「で……でも、」

     

    「それくらいの覚悟が無けりゃあ、戦やら行ったらいけん。言うたじゃろう……戦は自分の感情よりも、集団の目的を最も優先にするもんじゃと」

     

     

     どねえする、と再度念を押すように問われ、桜司郎は拳を固めた。

     

     

     少しの間の後に、顔を上げる。そして、頭を下げた。

     

     

    …………母上を、よろしくお願いいたします……」 一人きりで下山していると、ぼんやりしていたせいか、桜司郎は泥濘に足を取られて前方へ転倒した。

     

     

    …………痛、……何やってんだろ………………

     

     

     ぐるりと反転し、落ち葉の上に大の字になって空を見上げる。雲の流れは時勢に反して緩やかだった。

     

     身を切るような風が、今は心地よく感じる。

     

     

    「母上…………私は間違っていないですよね……

     

     

     ぽつりと呟いた。だけの感性であれば、恐らく藤を看取ることを諦めきれなかっただろう。しかし、が背を押したのだ。

     

     己の死因も人を庇ったことによるものだったように、極めて正義感が強いのだろう。

     

     

    ──戦が起これば、多くの民が傷付く。その上の幕臣としては、二百年以上も続いた徳川の威光を此処で地に落とす訳には行かなかった。

     

     

    「私は…………戦う。誇りを持った、武士として、最後まで……戦うんだ……

     

     

     桜司郎は身を起こすと、涙を乱暴に拭う。そして再び歩みを進めた。へ降りてからは、花の茶屋へ向かい、その足で三縁寺と光縁寺で墓参りをし、そして八木邸へ寄った。

     

     

     それぞれと別れの挨拶を済ませ、屯所へ戻った頃にはすっかり日が暮れていた。

     

     

     広間には既に殆どの隊士が集まっている。何人かは隊から出て行ったらしい。

     

     だがそこには顔を出しただけで留まらずに、廊下を更に進んだ。ある部屋の前に立つ。

     

     

    ──副長、今お時間宜しいでしょうか」

     

     

     そのように呼び掛ければ、入れとぶっきらぼうな声が返ってくる。桜司郎は深呼吸をひとつ吐くと、戸を開けた。

     

     

     中へ入ると、土方は筆を置き、身体ごとくるりと振り向く。

     

     

    …………何故戻ってきた」

     

    ……心が決まったからです。私は、戦に出ます。新撰組と命運を共にさせて下さい」

     

     

     真っ直ぐに見据えて言えば、土方は眉を寄せた。桜司郎が纏う雰囲気がガラリと変わっているのだ。脆さも強さも全て受け止めたような眼をしている。

     

     

    ──何だ、どうも様子が違う。まるで別人じゃねえか。一体何があったと云うんだ……

     

     

    「総司は戦には出させねえ……。それでも俺らに付き従うのか?……あいつと恋仲なんだろう。女に戻れば、女房として添い遂げられるかも知れねえぜ」

     

    …………沖田先生は、私を娶ることは望みません。それに、私はあの人の背を守ると誓って此処まで来ました。戦えぬのであれば、帰る居場所を守るのが使命でしょう」

     

     

     桜司郎は揺さぶりにも全く動じない。既にその心は固い決意が宿っている。

     

     テコでも意志を曲げないことを察したのか、やがて土方が折れた。

     

     

    …………分かった。そこまで言うなら、認める。ただし、絶対に根を上げるんじゃねえぞ。どれだけ悲惨だろうと、辛かろうと最後まで走り切るんだ」

     

     

    「はい──


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