• だと俺は分かっていたんじゃないか。

    だと俺は分かっていたんじゃないか。  脳裏には、宴へ向かう前の伊東を思い出す。『行ってくるよ』といつもの笑みを浮かべながら出て行った。二度と戻れぬとは全く思っていなかったのだろう。 ──なのに、俺は引き止めなかった。君のように、近藤さんの危機を知らせるわけでもなく、かと言って伊東先生を止めるわけでもない。  早くしろと再び怒鳴られ、藤堂は刀掛けから自分の刀を手に取った。  皆に着いて走っている間も、油小路に打ち捨てられた師の遺骸を見た時も、依然として胸の中にはぽっかりと穴が空いていた。 http://leowatts.mee.nu/ https://mixi.jp/view_diary.pl?id=198090866&owner_id=67647681  http://ruth74.zohosites.com/ 「伊東先生」と誰もが縋り、泣き咽ぶ中でもやはり藤堂は何の感情も湧かなかった。  希望だった坂本の死を知った時に全ての涙を流し尽くしてしまったのではないかと、手のひらを見ながら眉を寄せる。 「………………ごめんなさい。俺は半端者だ、」  自分だけに聞こえるようなか細い声でポツリと呟いた。  どちらにも付けない、どちらの仲も持てない半端者は裏切り者と同義だ。裏切り者には相応しい末路がある。  そこへ、その思いを肯定するように小路の影に多くの殺気を感じた。もはやこれも罠だと気付いた時には全てがもう遅い。 暗い小路から突然現れた鋭い槍の刃先が、伊東を囲む誰かの肩を貫いた。  ガア、とくぐもった声が冷たい路に響く。  それを合図と言わんばかりに、武装した黒装束の男たちが御陵衛士らを囲んだ。 「新撰組だ…………。畜生、これも罠だったのかッ」  服部は忌々しげな声を出すと、刀を抜く。彼は二刀流の遣い手であり、滅法強かった。それに追従するように、全員が抜刀する。  藤堂は自分たちを囲むを見やった。ざっと数えても十数名は下るまい。  ついぞ半年前まで共に同じ釜の飯を食った顔触れだった。共に背を預けて京の街を守った仲だった。だが、そうせざるを得ない状況を選んだのは自分達である。 「…………こんなところで、死ぬのかよ。兄上の無念も晴らせねえで…………」  伊東の実弟である鈴木が震えた声を出す。  散々修羅場を踏んできたからだろうか、はたまた絶望がそうさせているのか。諦念の境地に至った藤堂は、唇を引き結ぶと白刃を暗闇に晒した。そしてそれを新撰組へ向けたまま、そっと近寄った。 「…………ここは、俺が引き付けるよ。だから皆は逃げて」 ──俺に出来ること。せめて、を少しでも逃がさなきゃ。 「それは……!」 「きっと伊東先生も、一人でも多く生き残ることを望むと思う。大丈夫、俺はあの池田屋を乗り越えたンだから」  それは穏やかながらも、有無を言わせないものだった。鈴木らは息を呑むと、静かに頷く。 「……よく言った。俺も付き合うぜ、藤堂ッ。新撰組の連中にゃ、一泡吹かせなきゃ気が済まねえッ」  そこへ服部が便乗した。既に肩を負傷している者も合わせて三名でこの場を乗り切る流れになる。先生の二つ名は伊達ではない。どのように切り込めば先を開くことが出来るか、それを考えることは藤堂にとっては大の得意だった。  暗闇故に個々の顔は判別できない。しかし、昔から居る隊士と新規の隊士とでは戦闘の場数が違う。纏う闘気や、刀の構え方から一目瞭然だった。  ニヤリと笑うと、後者を狙って飛び込んだ。そして刀を側面から叩き割ると、腹部を思い切り蹴飛ばす。  愛刀の峰を肩へ乗せ、足を大きく開き、息を吸った。 「────おれの名は藤堂平助ッ!泣く子も黙る八番組の


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