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を歩いた。
を歩いた。
桜司郎は沖田の背を目で追う。それを見ているだけで身体が震え、背筋が伸びた。
──これで良い。私は、貴方の背を見詰めているだけで、このようにも満たされるのだから。
数日後。張り付くような喉の違和感と、動く度に響くような頭重感に顔を顰めながら、桜司郎は廊下へ出た。https://mathewanderson.blox.ua/2023/12/03/%e3%81%8c%e3%80%82%e3%82%84%e3%81%9f%e3%82%89%e3%81%a8%e8%89%af%e3%81%84%e4%ba%ba%e3%81%b6%e3%81%a3/ https://mathewanderson786.livedoor.blog/archives/873446.html https://mathew.rentafree.net/entry/1031339
久々に体調を崩したせいか、なかなか布団から出られずにすっかり日が明るい。今日が非番であることに感謝しながら、額に手を当てた。
「桜司郎ーーッ!大変だッ」
そこへ山野が勢いよく駆け寄ってくる。声が頭に響き、その不快感に思わず睨み付けた。
「八十八君……。何、どうしたの」
「お、お、沖田先生の婚約者が挨拶に来た!先生、ついに身を固めるんだってよ!」
──こんやく、しゃ……?
それを聞いた途端、がくりと足の力が抜ける。咄嗟に欄干へ手を付いた。
「おい、大丈夫か?まあ、驚くのも無理は無いよなァ。沖田先生も水臭いぜ、そんな相手が居るのなら教えてくれたって良いのに……」
なあ?と同意を求めるように話しかけるが、返事は無い。
「これがまた、べらぼうな別嬪なんだ。飴屋の評判な看板娘だってさ」
聞いているか?と山野は、桜司郎の顔を覗き込む。それを見るなり、ギョッと目を丸くした。呆然としながらも、その頬には涙を流しているのだ。
「お、桜司郎……。何故泣いているんだ?あッ、おい……」
慌てる山野の声すら耳に入らず、その場に座り込む。元々の気分の悪さに加えて、張り裂けそうな程に胸が痛んだ。胸元の着物を掴み、顔を歪める。 数日後。沖田の縁談はとんとん拍子に話しが進み、残すは祝言のみとなっていた。聞けば実はハルは天涯孤独の身であり、下手なしがらみも無い。その上近藤が尽力しているため、此処まで段取りが上手くいっているのだという。
この日一番組は夜番であるが、沖田は祝言の支度があるために、指揮は死番兼伍長の桜司郎へ一任された。
──いつかはこうなると覚悟していた筈なのに、これ程までに衝撃を受けるとは。情けない……。それでも武士の端くれなのか。
浮かない表情をする桜司郎の肩を、山野が叩く。
「桜司郎……大丈夫なのか。まだ具合が悪いなら、俺が死番変わるよ」
死番とは隊の先頭を切って歩く隊士のことで、踏み込みにおいても一番に行かなければならない。そのため、最も危険な役回りだった。
その申し出に、桜司郎は首を横に振る。
「ううん、大丈夫。沖田先生から任されているのだから、遂行したい」
「桜司郎……。分かった」
ハア、と息を吐けばそれは仄かに熱い。気を抜けば崩れてしまいそうだったが、そこは武士としての意地があった。腰の刀へ手を伸ばし、柄に手を乗せれば、気付け程度だが気が引き締まる。
くるりと後ろを向き、背後へ整列した隊士を見やった。
「今日は祇園方面か。…………一番組ッ、これより夜の巡察へ参る!」
高らかに宣言し、さっさと門を潜っていく。死番や指揮自体はこれまで幾度も行っているため、さして問題では無い。身体や心の方も、隊務となれば切り替えて無にすることは出来た。
──私もずっと成長した。だから、きっとこの痛みも乗り越えられる。負けるな、鈴木桜司郎。沖田先生から名を分けてもらった時の誓いを忘れてはならない。
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