• 「お待たせしました。

    「お待たせしました。山野さ──」  声に反応して振り向くと、そこには沖田の姿があった。沖田は目を丸くし、言葉を失っている。 ──八十八君にしてやられた!  山野の企みに直ぐに気付いた桜司郎は眉を顰めた。 「あれ……山野さんに呼ばれて来たのですが……。貴女も、ですか?」 「……はい。どうやら、八十八君の仕業のようです。沖田先生まで巻き込むなんて……、後で言っておきます。……それでは」  頭を下げて立ち去ろうとしたが、腕を沖田が掴んだ。https://carinadarlingg786.blox.ua/2023/12/03/%e6%9d%be%e5%8e%9f%e3%81%af%e8%a8%80%e8%91%89%e3%82%92%e7%b6%9a%e3%81%91%e3%81%9f/ https://carinadarling.livedoor.blog/archives/1117194.html  https://mathewanderson786.rentafree.net/entry/1031338 この期を逃せば二人で話すことなどもう無いと思ったのである。  その行動に驚きの表情を浮かべつつ、桜司郎は振り返った。 「あの……。良ければ少しだけ話していきませんか」  沖田は困ったように眉を下げ、穏やかな口調でそう問いかける。  桜司郎は視線を地面へ移しながら、小さく頷き返した。風が横髪を揺らす。 「……単刀直入にお聞きします。あの日、貴女の逢引の御相手は……土方さん、ですか」  その問い掛けに桜司郎は何も答えなかった。否、正しくは答えられなかったのだ。肯定すれば、土方との約束を破ることになる。だが否定すれば、別の誰かと逢引をしていることになる。ハルから、"えらい男前はんと歩いてはった"と言われた時に否定しておけば、もう少し別の言い訳もあったのかもしれない。 「……お答え出来ません。ごめんなさい……」  それを聞いた沖田は絶望に似た黒い感情がじわじわと胸に広がるのを感じた。せめて否定してくれたら、と願っていたことに気付く。 ──否定しないなんて、肯定しているも同然じゃないですか。 「そう、ですか。言いたくないのであれば、仕方ありません。……あの時の貴女は本当に美しかった。私よりも、その方は貴女の魅力を引き立てる方法を知っている」  一体どのような表情をしているのだろうか。感情を押し殺したような、普段の沖田からは想像も出来ないほどに冷たい声色だった。  褒め言葉を掛けられているというのに、それからは距離を感じさせる。近くにいるのに、ずっとずっと遠いところにいるような感覚に、桜司郎は顔を歪めた。 「良かったですね。あの人なら……きっと、幸せにしてくれます。女たらしですが、惚れた女子には滅法優しいから」  その言葉に、桜司郎は拳を固める。爪が皮膚に食い込んでは血が滲んだ。痛みなど今は何も感じない。むしろそれが無ければ、恥も誇りも無く無様に泣いてしまいそうだった。 胸の内に渦巻くどす黒い感情が、身体の全てを支配していく。この苦しくて悔しい思いに呑まれる前に、せめてものの意地を張りたいと言わんばかりに口を開いた。 「沖田先生、こそ……。あれほど可愛らしい方に想われるなんて、良かったですね。妬けちゃいます」  桜司郎から出たのは、精一杯の強がりであり、沖田にとって望まぬ言葉だった。 「し……、新撰組の一番組長と、綺麗な娘さん……。お似合いですよ」  心にも無いことを言ったためか、今までに無い程に後味が悪い。早速吐き出した言葉を後悔し始める。  ずっと俯いているために、沖田の表情は分からなかったが、息を飲む気配を感じた。 「……本当に。本当に……そう思いますか?」  何処か縋るような、泣いているような、切ない声色が頭上から降ってくる。 ──どうして。どうして、そんな声をするの。期待してしまうから、止めてよ。  固く固く握った拳は真っ白になり、破られた皮膚から滴る血が地面に落ちた。それは雨に曝されて色を消していく。 「…………はい」


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