• そうこう話していると

    そうこう話していると、試衛館の門が見える。決して大きくは無いが、近付くと覇気のある声や木刀の打ち合う音が聞こえてくるような活気ある道場だ。

    土方と斎藤の背筋は自然と伸びる。

     

    戸惑うことなく門を潜った。https://plaza.rakuten.co.jp/aisha1579/diary/202311280000/ https://blog.goo.ne.jp/debsy/e/570aafbfbd5c066c2a33452ccb0e1c69 https://freelance1.hatenablog.com/entry/2023/11/28/201134 土方が母屋に向かって声を掛けると、直ぐに一人のお世辞にも美人とはいえないが素朴な目元が愛らしい女性と小さな女の子が顔を出す。

     

     

    「あれ、歳三さんですかい。随分お早い到着で。先代をお呼びしますんで、どうぞお上がり下さいよ。洗足用の桶ならそこに」

     

    「ああ、済まねえな。おツネさん。たまも見ないうちに大きくなった」

     

     

    その女達は近藤の妻である"ツネ"と嫡女である"たま"だった。土方は式台に座ると草鞋を脱いで足を洗う。斎藤と桜司郎も促されてそれに倣った。

     

    土方がたまの頭を撫でようとすると、たまはヒラリとその手を避ける。ムキになった土方はそれを何度か繰り返すが、その度に逃げられ、みるみる眉間に皺が寄っていった。ついにたまは桜司郎の後ろへ隠れる。

     

    「副長、そんな気難しい顔で触ろうとしちゃ駄目ですよ。女の子はそういうのに敏感なんです」

     

    見かねた桜司郎はそう言うと、笑みを浮かべて足元にいるたまと視線を合わせるように屈んだ。

     

     

    「たまちゃん、初めまして。桜司郎と言います。仲良くしてね」

     

    すると、たまは桜司郎の手をそっと握る。ツネはそれを驚いたような表情で見た。

     

    「あんれ。たまが殿方へ懐くなど珍しい。いつもにしか寄って行かないんですわ」

     

     

    その言葉に桜司郎は内心慌てる。何故ですかね、と愛想笑いをして誤魔化した。

     

    そこへドスドスと足音を立てての杖を付いた老人が現れる。

    威厳を全面に押し出したような、気難しい顔付きで此方を見ていた。

     

    「周斎先生。ご無沙汰してます」

     

    土方は一歩前へ出たと思うと、恭しく頭を下げる。それに斎藤と桜司郎も倣った。桜司郎の足元でたまが不思議そうにそれを見ている。

     

     

    「おう、歳三にか。その横の小童は誰じゃ」

     

    「鈴木桜司郎と言うんだ。新撰組の隊士で、総司の弟分さ」

     

     

    土方がすかさず紹介を入れた。何処か見透かされそうなとした目付きに桜司郎は顔を伏せる。

     

    「ほう、あの宗次郎に弟分か。偉くなったもんだな。結構結構。して桜司郎、俯いてちゃあ顔も分からん」

     

    周斎はニヤリと笑うと、髭を弄った。斎藤に肘で軽くつつかれ、桜司郎はおずおずと顔を上げる。

     

    すると周斎からはんん、と訝しげな声が漏れた。

     

     

    「お主……試衛館に来たことはェか?」

     

    土方を手で避けると、桜司郎の前にずいと近寄る。そしてじろじろと見始めた。

     

    「いや、それにしては小さい……んん、顔付きも違ェか……

     

    「な、無いです……

     

     

    独り言をぶつぶつと言うと、記憶を遡るように視線を天井へ向ける。

     

    「桜司郎よ、歳はいくつになる」

     

    「えっと……十八になりました」

     

    「十八……じゃあ違ェな。他人の空似と言う奴か。済まなかったのう」

     

     

    笑いながら桜司郎の肩を叩くと、周斎は元居た場所へ戻った。桜司郎の横にいる斎藤が口を開く。

     

    「周斎先生、この者と面識が?」

     

    「いや、まだ勇に試衛館を継がせる前に道場破りに来た男が居てな。若く見えたが、歳は二十を超えていたか……、歳三と同じように型破りな男だったよ。あちこちの流派を齧っては転々として鍛えていたようだ」

     

    滅法強かった、と周斎は顔を伏せた。

     

    「そのような男が……手合わせをしてみたいものですな」

     

    「あれも打刀ではなく、珍しく太刀を引っ提げておったな。最も、桜司郎とは体格が違うな。もちっと背丈が高かった」

     

     

     

    自分の事では無いにしろ、話の中心になっていることがむず痒く思った桜司郎は何とか話題を変えようと口を開く。


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